2007年はGacktにとって特別な年になった。理由は、今さら言うまでもないが、大河ドラマ「風林火山」への出演。最高の人たちと出会い、これまでにはなかった経験もした。そのスペシャルな年を締めくくるのが、愛する「ガンダム」の楽曲をフルリメイクしたメモリアル作品。Gacktがこの1年とこれからを語る。
「1年を振り返って…、そうだね、勉強の年だった。大河の現場には、大御所と呼ばれる役者の方たちが大勢おられて、刺激も学ぶところもたくさんあった。大河で出会えた役者さんたちの影響は大きいよ」
今年、大河ドラマ「風林火山」に出演。多くの役者に影響を受けた。そのなかでも特に大きかったのが、緒形拳の存在。
「色っぽいし、男っぽいし。狂気を感じるときもあれば、穏やかで静かな湖面のような人でもある。一緒にいてこんなに楽しい人っていないよ。だから、毎日現場に行くのが楽しかった。緒形さんは、これまで僕になかった感情にも気づかせてくれたんだ。今まで、ファンのみんなのために自分の活動があって、自分の大儀のため、通さなければならない信念のため、自分の叶えたい理想のために、自分の活動のすべてがあった。それ以外の感情って正直なかった。ところが、緒形さんと出会って、いろんなことを教えてもらったり、話したりするなかで、“この人の喜ぶ顔がみたい”、“この人に褒められたい”って思うようになったんだ。ビックリしたよ、自分にもこんな感情があったんだって。……父親ってこんな感じなのかな。僕は、父親に対してそう思ったことがあまりなかったから」
そういった感情はともかく、大河での経験は音楽にも跳ね返ってきた。クランクアップ後にレコーディングされた、ガンダム史上最強のコンセプトアルバム『0079 - 0088』。
「タイミングだとか、呼吸とか、表現だとか、大河のなかでやったことがリンクしてきたね、歌なのに(笑)。やっぱり人生って無駄なことなんて一つもない。でも、今回、何よりも強く感じたのは、自分はミュージシャンなんだってこと。ずっと、音楽活動から遠ざかっていたから」
『0079 - 0088』は、ガンダム好きとしても知られるGacktが、これまでにガンダムとコラボレーションした6曲と、ファーストガンダムの映画主題歌「砂の十字架」、「哀 戦士」、「めぐりあい」をフルリメイクして構成。ガンダムファンならば何よりも愛着がある曲を、今の音に、そしてGacktにしかできない方法で歌い、鳴らす。「すごく苦悩だった(笑)」と、本人。
「カバーするにあたって、そのまま歌いたいのなら、それはそれでありと思う。でもそれじゃ時を越えられない。今を表現したいなら最初から作り直さなければって。……それに、ファンのみんな、ガンダムファンであり、僕のファンでもあるんだけど、彼らの気持ちに応えたいし、僕自身もガンダムが好きだから、ガンダムに関わる作品を残すのに中途半端な作品は残したくないという思いが強かった。その結果、これまでに自分が作ったどの楽曲よりも時間がかかったよ、笑える話だよね」
Gacktは時折笑みを見せながら続ける。
「最初の『哀戦士』から作業が止まってしまって。しばらく時間を置いて冷静になってから、『めぐりあい』もいい形になった。で、問題だったのが『砂の十字架』。この曲は何と言うか、壮大すぎるんだよね(苦笑)。何をやってもその雰囲気が抜けない。だったら、インストにして、ガンダムのシーンとしてはめ込んでみるのもいいかもしれない、と頭を切り替えて。シャアがガルマを殺した後に酒場で“坊やだからさ”っていうシーンがあって、その酒場のレコードから流れている曲にしようと決めたんだ。シャアが何を思うのかっていうのを曲にのせて作り始めた」
ガンダムについて話し出すと、Gacktも時々遭遇するガンダムファンの姿とそう変わらない。熱い、長い、そして最後には「見れば分かる」。
「ガンダムの魅力?それは、人間っていうものをテーマにしているからだよ。ガンダムを知らない人たちって、ロボットアニメのイメージしかないでしょ。世の中にたくさんある、戦ったり変形したりっていう。ガンダムは人間ドラマ、それを知らない人が多い。知らなくてもいいんだけどね、知っている人の特権みたいなものだから(笑)。ただ、ガンダムがどうしてこんなに愛されるかといえば、子供たちが言いたいこと、言わなければいけないことを初めて表現したアニメだからだと思う。それまでは、ヒーローとヒール、善と悪を絶対的に打ち出した、アメコミだとかアメリカのアニメの延長上に過ぎなかった。それってある意味、洗脳だよ。だって、実際は違うよね。人は、それぞれに正義と悪があって、善と悪では語れないすごく複雑な部分を抱えているわけじゃない? ガンダムって簡単に言えば戦争映画で、その主人公のアムロはエースパイロット。ヒーローなのに、彼はそれを望んでなくて、嫌なのに洗脳や大人のエゴのためにやってる。だから、戦争のさなかに“もう戦いたくないんだよ”って。素直な子供の気持ちだよ。そんなことは初めてだったから当時番組を見ていた子供たちはそれが理解できなかった。だから、打ち切りにもなった。でも時間を経て理解されるようになって、反応する子供たちが出てきた。ガンダム的にいうと、ニュータイプとして覚醒する子供たち、大人たちに対して素直に疑問を持てる子供たちが増えたんだ。それが僕らの世代なんだと思う。ガンダムは子供の心を解放したんだよ」
「もうひとつの魅力は問いかけ続けたこと。例えば、『逆襲のシャア』に至るまで、シャアは復讐という目的のためにすべての感情を捨て、自分のするべきことに覚悟を決めた。シャアは、信念を持っていて、迷いがなくて、言葉が少なくて、明確に物事を判断できる、男の理想だよ。それが、アムロに出会ったことで人間的な部分が表れてしまう。感情のないところから感情のある方向にいったシャアと、迷いながらもいろんなものを発見しながら大人になったアムロ。アムロは『逆襲のシャア』で、「それはエゴだよ」ってシャアに言うようになるまで成長した。どっちがいいんだろう、どっちが本当の姿?ってね……。答えを言わず、こうなったらどうなる、君はどう思うのかって視聴者に向けてずっと語りかけてる。それがガンダムなんだ」
「来年はとにかく音楽漬け、スゴい作品が出てくると思うよ。僕のなかで2010年っていうのが1つの区切りになっていて、そこまではとにかく走る。歌うことが好きだし、みんなの背中を押せるものをずっと作っていきたいという思いは欲としてあるけど、今僕がやっているステージを死ぬまでやれるかっていったらその自信はない。今でもギリギリなんだから(笑)。今のスタイルだったらあと3、4年できるかどうか、だから2010年。その後は、できると思ったらやるし、できないと思ったらパッとステージを降りる。だから、今は走るだけだよ」
「常に全力疾走。マラソンじゃないんだ」と、Gackt。来年の走りっぷりにも注目だ。
「その後はできると思ったらやるし、できないと思ったらパッとステージを降りる。今は走るだけだよ」